オール・オールライト-3


 ぼくがそばに寄っていくとハッと身体を強ばらせる。顔をしかめたり、不安そうにまわりを見回したりする。急に動きが素早くなって、一秒でも早くここから出ようとする。
 気配に気づいてる。だれかいるって感じてるんだ。
 それが分かっただけで張り合いがちがった。人が来るたびに自分をアピールするようになった。ほとんどは空振りだったけど、でもだんだん学んでいった。ぼくのことに気づきそうな人が、あらかじめ分かるようになったんだ。
 大人はだいたい無反応と思っていい。ただ、ぼくよりちっちゃな子どもたちは、個人差はあってもなにか感じてくれる。気配を感じてキョロキョロしたり、ブルッと身体を震わせたりする。なぜだかくしゃみが止まらなくなった男の子もいた。二歳ぐらいの女の子とは、目が合った。その子はニコッとしてくれたんだ。たしかに、ぼくに向かって。すごく嬉しかった。親が車に乗せて、すぐ出て行ってしまったけど。あれ以来あの子を見かけてない。
 あとは、おばあちゃんがぼくを睨みつけてきたことがある。でも手で払われた。しっしっ、あっちへ行けって感じで。あれは傷ついた。ぼくはノラ猫じゃないぞ! そう叫ぼうかと思ったけど、怖くてやめた。目つきが変で、ずっとブツブツなにか言ってるような人だったから。ちょっかい出すとなにするか分からない。引っかかれたくなかった。
 でもそんなことを繰り返してるうちに、ぼくはコツをつかんでいった。いままで無反応だった人たちにも、自分の存在を感じさせる方法を編み出したのだ。
 それは、物音をさせること。
 ぼくのノドから出た声は届かないけれど、駐車場にあるものに触って動かすことで、音を立てることはできる。

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