オール・オールライト-5

 いくら捜しても、ぼくの出口はどこにもないのだ。
 でも構わない、と思った。ここはぼくの家だから。この地下のだだっ広い空間だけが棲み家。ここの主人はぼくだ。好きなようにさせてもらう。ぼくの縄張りに入ってくる人間になにをしようがこっちの勝手。だれにも邪魔はさせない。
 でも――ゆうべからここは居心地が悪い。
 邪魔なヤツがいるんだ。
 ぼくはいやいや、駐車場の隅に目をやる。
 床に寝転がっている男がいる。ゆうべからだ。
 二十代ぐらい。地味な紺色のジャージを着てる。その上からグレーのトレーナー。見るからに薄汚れていて、十年ぐらい洗っていないように見える。
 ジャージのヒザには穴が開いていて、裸足。サンダルをつっかけている。それで寒そうじゃない。いま、夏だっけ? とぼくは首をひねった。おかしいなあ。ぼくはコートを着てるんだけど。
 この変なヤツ、ボロボロのリュックは持ってるけど、荷物はそれだけ。なんでこんなところに転がり込んできた? 車を持ってるようにはぜんぜん見えない。ここのマンションに住めるような恰好でもない。
 たぶん……宿なしの人だ。ぼくはそう思った。貧乏で、仕事もない。でも寝る場所は欲しい。外で寝るよりはマシだ、と思って、こっそりここに入ってきたんだろう。そしてひたすら寝ている。よっぽど疲れてたんだろうか。それとも……なにもやる気が起きないのか。すごく悲しいことでもあったのかも。
 分からない。とにかく目障りだった。いますぐ追い出したい。
 でもぼくがそばによっても、ちょっかい出してもまるで反応しない。かなり鈍感なヤツだ。ぼくがまったく見えないどころか、気配さえ感じないらしい。
 なんだよー、というぼやきももちろん聞こえない。出てけよー、ジャマだよー。

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