オール・オールライト-1

 カツン……と、尖った音が響く。
 人工的な空間に反響する。
 カツンカツンカツン……人の足音だ。続いてドアを開ける音、閉める音。
 やがてブルン、という唸り。エンジンがかかり、ヘッドライトが光る。車が動き出し、ここを出てゆく。
 あるいは、車が入ってくる。エンジンが止まり、ライトが消え、ドアが開く。人が出てきて、足音を響かせながらここを出てゆく。
 繰り返し、繰り返し。似たような光景が続く。いったい何回目だろう。千回。いや一万回? もう分からない。
 ここに据えられた監視カメラ並みに、ぼくはここで起こる単調な光景を目に映してきた。なすすべもなく。
 ときどき、自分の名前を忘れてしまう。
 どうしてここにいるのかも分からなくなる。
 ハッと気づくと、たくさんの車のあいだに、ぽつんと一人でいる自分を見つけるのだ。
 ここは地下にある駐車場。五十台ぐらい入るスペース。
 この駐車場の上には大きなマンションがある。そこに住んでいる人たち専用だ。
 だから、庶民的な車はあんまりない。車には詳しくないけれど、高級そうな国産車が多い。外車もある。どれも車体がピカピカだ。
 さっき一台出て行ってから、なにも起こらない。だれもここに入ってこない。
 ここでは、人がいない時間が長い。とても。

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